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珍島イヤギ・・・イヤギってなあに?

珍島イヤギ・・・イヤギってなあに?

シッキムクッ

シッキムクッ(重要無形文化財 第72号 1980年11月17日指定)

シッキムは洗う、クッは家の安泰や人の幸運そして病気の快癒を祈ったり神霊の託宣と死霊の意思を受け伝える目的で巫女が歌い踊って神を喜ばせるシャーマンの儀式である。他の地域では巫女が火の上や刀の上を歩くなど多分に詐術的で、衣装も派手な原色の宮中韓服を着て、巫女自身に死者の霊が下る。けれども珍島シッキムクッは白装束で踊りと歌で神に祈りをささげる。一晩中続くシッキムクッは「キルタクム(道清め)」で絶頂を成す。
この音楽は1979年の世界巫俗音楽祭りで金賞を受賞した。

シッキムクッの一部分

kopuri
コプリ「コ(苦)結び目・プリ(解く)」
この世で成せなかった思いや願いを象徴するヒモに結び目を作っておき、一つ一つ解きながら恨みを晴らすよう祈る内容である。

kirutakumu
キルタクム「キル(道)・タクム(洗う)」
道清めの内容である。この世で全ての恨みを解いたので極楽往生出来ると信じ木綿布(三三尺)の上を、魂を入れた箱で極楽に行く道を清める


シッキムクッ

【珍島シッキムクッの種類】
1)カクモリシッキムクッ:カクとは棺のことで死体の横で行うので「真シッキ厶」ともいう。

2)小祥シッキムクッ:喪中にシッキムクッを行わず小祥(一周忌)の夜に行う。

3)大祥シッキムクッ:大祥(三周忌)の夜に行う。脱祥シッキムクッともいう。

4)ナルパジシッキムクッ:家に良くないことが頻繁に起こると巫女に占いをたて、先祖の恨みゆえに子孫に災いを下していると聞き、その霊を慰労するため行う。巫女が日を決めるので「ナルパジ(日定め)シッキムクッ」という。

5)草墳移送のシッキムクッ:珍島には草墳といって死体を土に埋めず、土の上に一時期安置し草をかぶせておく風習がある。数年後、土葬にするがこのとき行うシッキムクッである。

6)栄華シッキムクッ:先祖の石碑を建てるときに魂の平安を祈ったり、家庭に喜ばしい出来事があるとき先祖の守護を感謝する意味で行う。

7)魂の引き上げクッ:水死した人の霊を(水から)引き上げるとき行うクッである。

8)あの世の婚姻クッ:結婚しないで亡くなった男女が亡くなった者同士、婚姻させるとき行う。


【珍島シッキムクッの順序】
1)アンタン:家の中央にある板の間で「今日は誰のためのクッをします」と先祖に伝えるクッである。

2)ホンマジ:客死(旅先で死ぬこと)した人のシッキムクッである。

3)チョカマンソク:招魂ともいう。クッをする死者やその先祖、友人の霊を呼ぶ。

4)チョオリギ:チョカマンソクで呼び寄せた霊を楽しませる。

5)帝釈クッ:珍島での中心クッで、クッをするときは必ず行う。

6)コプリ:この世で成せなかった思いや願いを、長い白布に結び目をつくり一つ一つ解きながら恨みを象徴的に晴らす内容である。「コ(苦=結び目)、プリ(解く)」

7)ヨンドンマリ:死者を意味するヨンドン(藁人形)を巻く内容である。死者の韓国服をゴザ(ヨンドン)に広げぐるぐる巻き七カ所を結んで立てる。

8)イスルトルギ:別名「洗う」ともいうが、シッキムクッの中心的な内容である。立ててあるゴザ(ヨンドン)人形を、よもぎの水・香りの水・清浄水の順序でほうきに水をつけ上から下に洗う。これは逐鬼的な意味をもつよもぎ水などで、ゴザ人形を洗うことにより極楽往生するよう祈る内容である。

この後ウアンプリ・ノクプリ・ドンガププリ・ヤクプリ・ノクオルリ・ソンデチャビ・ヒソル・キルタクムの順序でクッを行い最後はチョンチョンで終わる。一晩中続くシッキムクッは「キルタクム(道清め)」で絶頂を成すが、事切れるように哀切なく続く曲調は集まった人々の涙をそそる。


【全羅道の巫女】
全羅道地域の巫俗の大きな特徴は世襲巫により巫俗儀礼が行われるという点である。
世襲巫は世襲巫系出身の女性が世襲巫系の男性と結婚し、姑から技能を学ぶ[姑ー嫁]の世襲関係で巫業を継承する。そして息子は父親の技芸を学び、妻と共に巫業を受け継ぐのである。こうして妻はクッをし、夫は楽器を演奏する一つの独立した司祭集団が形成される。このような血縁的な継承により巫女の家系から巫女が輩出される巫系が形成されるのである。

全羅道の巫俗はこのような世襲巫が主流を成している。これらは降神体験や巫病とは関係なく家系により巫女が継承され技芸を学び巫業を引き継いでいく。そのため降神巫クッは霊力をひけらかし、神に憑かれるのが重視されまたクッの内容が変わるごとに巫服を着替えたりせず、世襲巫は白装束で祭儀的行為や歌や踊りなどを通じて神を喜ばせ、神に人間の願いを祈るのである。 
<珍島郡庁 観光ガイド 教育教材より>



【私の見たシッキムクッ】
1985年2月に始めて私は珍島に上陸した。珍島出身の主人の家族は、ろくに韓国語のできない私を温かく迎えてくれた。昔のことなので記憶ははっきりしないが・・この時シッキムクッを始めて見た。主人の知人宅で20代でなくなった青年と娘を霊界結婚させる儀式であった。韓国では結婚せずに亡くなった魂は鬼神となり成仏できず、自分の家族に祟りを下すと信じられている。それで家族に病気がちの者や事故が頻繁に起こったりすると巫女にお伺いをたてる。霊界結婚式をあげることになる。
娘さんも、このお伺いをたてた。いくら死んだ者同士でもお互いに気持が合わないといけないんだそうだ。「農薬を飲んで自殺した青年はどうか?」「嫌よ!農薬の臭いがする」それで事故死した青年との結婚式が成立した。

祭祀と同じくお膳にごちそうを並べ、前に屏風を立てる。その屏風に男女別々に白い韓国服をかけ、胸に小さく写真を付ける。「いままで寂しく過ごしたが、これからは幸せに暮すように・・」祈りつつ儀式が進められる。厳かに式が終わると庭で韓国服を燃し成仏するよう最後の祈祷を捧げる。日本は葬式というと黒装束だが、白い衣装で行う儀式は清い印象を受けた。

珍島では毎週土曜日に「土曜民俗公演」と題して午後2時から無料の公演をおこなっている。時々このシッキムクッの一部分を観覧することができるが舞台化された公演もいいが、本物はやはり重みがある。この写真はシッキムクッの一部分、キルタクム(道清め)の公演写真である。あの世に行く三途の川を思わせる内容だ。



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